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意志なき日本の漂流

昨日大勢が判明したオーストラリアの総選挙では、与党・保守連合(自由党・国民党)が野党・労働党に大敗するという結果になった。
与党を率いるジョン・ハワード首相が自らの選挙区(シドニー)で落選するなど、11年ぶりの政権交代を強く印象付ける結果が現れた。

野党・労働党を率いるケビン・ラッド新首相の政策は、実際にはハワード政権とそう大差ない。特に経済面において、ハワード政権に失政といえるようなものはなく、選挙戦で両党が掲げた所得税減税案も酷似していた(ラッド氏はミー・トゥー(me too)な人、とさえ言われた)。
にも関わらず、オーストラリア国民が政権交代を選んだ理由については、「イッツ・タイム(It's time)症候群」だと解説する向きがある。つまりは、ハワード政権について失政はなくともそろそろ引き際だと多くの国民が感じていたということだ。

が、こうした漠然とした理由とは別に、もっと明確な両党の対立点があった。
ひとつは地球温暖化に対する政策だ。京都議定書への批准については、ハワード政権が一貫して拒否し続けてきたのとは対照的に、ラッド氏は「総選挙で勝利すれば即時批准する」としてきた。
もうひとつは対米姿勢だ。ハワード政権は同時多発テロ以来一貫してアメリカを支持し、イラクへも派兵してきた。が、ラッド氏と労働党は豪軍のイラクからの撤退を主張している。

つまりは、今回の総選挙で豪国民が行った明確な選択の第一点は地球温暖化問題への前向きな取り組み、そして第二点は"対米追従"からの脱却だと言える。

今回のオーストラリアの政権交代により、主要国ではブッシュ政権を支持した「有志連合」の立役者が全て表舞台から消えたことになる。
スペインのアスナール首相は、やはり"対米追従"批判に負け、サパテロ首相に政権を譲った。これが最初だ。以後、日本の小泉首相、イギリスのブレア首相などが続々と退陣し、同じ与党で政権を引き継いだが日本は周知の通りの現状、イギリスでもブラウン首相が総選挙の延期を表明してから逆風に晒されている。

一方、イラク戦争に反対した主要国の中では政権の権力基盤がより一層強化された例が目立つ。
ロシアではウラジーミル・プーチン大統領が来年大統領としての任期切れを迎えるが、彼が権力を手元に維持し続けるのは既定路線だ。三選禁止規定回避のため首相に就任するとか、任期切れ直前に辞任して大統領選に出れば三選禁止に抵触しないとか、そうした続投前提論はしばしば聞こえてくるが野党は共産党以外議席を得ることさえままならない情勢で、完全に埋没している。
中国でも、先の党大会で胡錦濤国家主席は中南海を"制圧"し、江沢民氏の上海閥の影響力を決定的に削ぐことに成功した。曽慶紅氏の引退はその最たる例だろう。
また、フランスではジャック・シラク大統領が引退し、同じ与党の国民運動連合(UMP)からニコラ・サルコジ氏が新しい大統領に就任した。彼は親米路線に舵を切っているものの、つい先ごろも年金改革で鉄道労組のストに打ち勝つ成果を挙げるなど政権基盤を確実に固めつつある。

こうした動きを概観すれば、国際社会では総じて反米的傾向が強く、濃くなっていると言えよう。大きなトレンドと言ってよいかもしれない。
国内でも、小沢氏と民主党議員の言動は国民の潜在的反米意識に訴えかけるような側面がある。イラク戦争の正統性を疑う空気は当のアメリカでも強いだけに、全世界的なアメリカ離反の動きに従って日本の政局も動いていく可能性は高い。

だが、そうした流れのなかでも指摘しておかなければならないことは、日本が外交・安全保障政策において手元に置くオプションは限られるということだ。
現憲法下において、戦後一貫して日本の安全保障を担ってきたのは他ならぬ米軍である。日米安全保障条約なくして日本の国家安全保障は成立せず、必然的にアメリカ寄りの("対米追従"と評判の悪い)外交が求められる結果となることは言うまでもない。

他国で反米機運が政権交代を巻き起こすのは、有事の際には基本的に自国軍のみで対応出来る安全保障体制と、それに対する国民世論の無意識の信認があるからだろう。そのうえにおいて議会で二大政党制が定着していれば、外交政策においても国民は常識的なオプションをいつでも選べる。
ところが、日本では主体的な安全保障体制は存在せず、現行の米軍を基軸とした安全保障体制にも信認が明確にあるとは言えない。実際、米軍基地は何処でも厄介物扱いであり、事あるごとに住民投票を持ち出す勢力と、その勢力の期待に満額回答を寄越してしまう多数の住民の存在が目に付く。

こうした状況下において、"対米追従"などという言葉を持ち出して反米機運を煽るのは危険だ。
何しろ、日本には他の国家が当たり前のように行使できる「主体的な外交・安保」というオプションがない。また、そうした状況を打開しようというビジョンもないのだから尚更だ。にも関わらず、安易に対米離反のような主張を行って国民の歓心を買おうとするのは(民主党にしろ自民党のリベラル系勢力にせよ)、流動化する国際社会のなかで日本だけが内臓むき出しの状態で晒される状況を作ってしまうことは間違いない。
静かに無菌室(アメリカの傘の下)で寝ていればいいものを、一時の感情の高ぶり(反米機運)で点滴を引き抜き外に飛び出す(日米離間)ような真似をすれば、なすすべもなくウィルスにやられ、終いには不治の病に冒されに至る危険さえあるというわけだ。

ちなみに、冒頭で触れたラッド氏は、イラクからの豪軍撤退を打ち出す一方で、ヨルダンなど周辺国への新たな部隊派遣も検討している。対米"非追従"姿勢を明確にする一方で、国際社会に対しては主体的に責任を果たす意思を明確にしているのだ。日本の野党には学んでほしい姿勢である。

憲法をめぐる議論が迷走していることも懸念すべきだ。
日本には、このまま憲法を守ってアメリカの傘の下で生きていくオプションもあれば、憲法を変えて国際社会で主体的に地位を占めていくオプションもある。いずれもオプションとしては長所も短所もあり、議論に値する。こと私は自由主義者であるから、それが尊重され、守られる環境であれば如何なる議論や主張にも相応の価値があると考える。

が、恐ろしいのは国民が明確なビジョンを見出すことなく、ただ"空気"に流されていくことだ。
地政学的に見ても、日本の周辺では朝鮮半島や台湾海峡など不安定な地域が多く、台頭する中国とその軍事力は率直に脅威と認識しなければならない。だが、大多数の国民にそうした認識はなく、経済的にこらえ性のなくなった人間が自由主義経済の恩恵を忘れてぼやくという状況で、沈滞ムードさえ漂う。

政治・メディア主導で様々な国家的ビジョンについて国民世論を喚起出来ないのだろうか。
政治家やメディアにはそうした役割があるはずだが、彼らの良識に期待しても物事は進みそうにない。かといって今の状況で国民の側から何かを突き動かすかのような契機はなさそうだ。
意志なき日本のとめどなき漂流が始まりそうである。 (Y・K)


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コメント


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意思

「意思なき漂流」とは?
この場合の意思とは何でしょうか?また、かつてその意思があったのでしょうか。
そして、その意思を同時に必要としているのでしょうか。意思がなければどのようなことが生じるのでしょうか。その意思をもし、必要とする時は今後必要なのか、それとも今必要なのか。その意思の役割について・・・そして、一体その意思とは何なのかを先ず、理解できればと希望します。
そして、そんなに大切であることならどうやってその意思を理解させて育てて実行させるか等々・・・。
漠然ではあるが必要にかんずることがそれを知りたいとの所以である。

光砂一 | URL | 2007年11月25日(Sun)10:18 [EDIT]


コメントありがとうございます

コメントありがとうございます。

この場合の「意志」とは、特に本文後半で指摘した安全保障・憲法に対する国民の意志を指します。
ここで明確な意志があれば政治家も好むと好まざるとに関わらず憲法論議に突き進むでしょうが、そうでないために事態は膠着状態にあります。

私個人の欲を言えば、それに加えて大枠の経済政策などについても国民全体のコンセンサス(総意)があってほしいと思います。今の状況では、国民が求めるのは小泉改革の継続なのか打ち止めなのか、はたまたそれとは別次元のものなのか判然としません。

結局のところ、ジャンルを問わず国家の将来に関わる大きなビジョンについて、国民的な議論くらいはなされるべきです。
私たちのような立場ではブログやニュースメディアに記事を書くくらいしかプッシュが出来ませんが、政治家やマスコミ自身が動けば少しは違うはずです。
それを期待したいです。

newjapan(Y・K) | URL | 2007年11月25日(Sun)10:28 [EDIT]


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